■劇団史上初の「ノンフィクション」時代劇

森川次朗さん:
(以下、森)

今回の試みは、ファンタジーのキューブリックらしからぬといえばらしからぬ、ですよね。だって“史実”でしょ。
   
緑川憲仁:
(以下、緑)

宮沢賢治でちょっと史実に擦るぐらいはありましたけど、ここまで作品全体を史実に沿ってっていうのは初ですね。(『葡萄酒いろのミストラル』2002年初演、2004年再演)
今までだったらば「キューブリックはこうあるべきだ」とか自分で枠を想定して脚本や演出したりしてたけど、そうしなくたって、自分達らしさなんて絶対につきまとうんですよ。だからまずは僕が、新しい方向にどこまでもはみ出して行って、その結果の自分達らしさっていうのが見たいなっていう欲求が、突然、前回のレグルスから出てきたんですよ。(『レグルスのガラスの翼』2007年8月上演)

 
森: でも、前回までは僕はわりと「キューブリックらしいな」と思っていたんです。今回は特別異色な感じがするのはやっぱり、実在の人をどう使うのか、ファンタジーテイストにするのかしないのか。で、歴史物をするには1時間半とか45分じゃ短い。大河ドラマ50回とか25回でイイ感じになる内容ですよ。
 
緑: その通りです。そこで必要になってくるのが、次朗さんと協力して作らないといけない、“言葉に頼らない表現”の時間なんですよ。大河であれば50回は必要なところをお芝居の2時間でおさめるために。言葉だけにたよってると、絶対に何日も(笑)結末までにかけなきゃいけないところを、理屈じゃなくお客さんに楽しんでもらう、というところで。
もともと僕らが作っていきたいのもそういう、理屈じゃない“毛穴”で楽しめるエンターテイメントなんです。
 

■「チャンバラなし!」の時代劇
 
森: 今回、アクションを使わないっていうか、一般的な手段は取らないってことですよね。
 
緑:

実際はちょっと、一瞬「え、チャンバラやるしかないか?!」って考えたこともちょっと、あったんですけどね。でもちゃんと、やらないように努めました。
「コイツが勝ちそうになるけど負けるんだろうなあ」っていうあらすじが、僕はチャンバラには見えてしまうんで。そうじゃなくて、何が起こるかわからないっていう意味では、例えば合戦をダンス表現にしたらば、次の瞬間何が出てく
るかわからないっていう度合いが、お客さんには大きいと思う。そこを楽しんでほしいんです、一番。

 
森: うーん。戦闘シーンをアクションでやるというのは、何というかそれ以上にはならないんですよね。アクションは、戦い以外の表現ができない手段ですから。
要するに怒りの感情くらいしか出せない。相手を倒すことしかできないんですよ。生かすことも逃がすこともできない・・・ま、できなくもないですが。視覚的には非常におもしろいんですよね。そういう長所はとってもあるんですが。
 
緑: 時代劇ってなると、一般的に男っぽかったり、かっこよかったりというのが出てきやすいんです。キューブリックって、もちろんそれも意外なところとしてお客さんには楽しんで欲しいっていうのもありますけど、絶対にはずしたくないのは、その奥にあったり、裏側にあったりする葛藤だったり、弱さだったり、なんかせつない部分だったり。合戦シーンですらそういう一瞬が見えたいな、って。
 
森: ああ、もう一個、ちょっとこれも危険なことがあって、○○○のシーンをダンスでやろうっていうのは気をつけないと、とってつけたみたいな感じになって、寒いんですよ。
さっき僕が振り付けしながら「あー、これは寒いわー寒いわー」っていいながらやってたのは、そのへんのさじ加減なんですよ。音楽があって、じゃ、こんなかで踊りをください、ポンポンポンポンってやっちゃったすると、それはもう目も当てられない結果になるんで、が故に、ここは何がたよりになるかっていうと、演出家のビジュアルイメージが欲しいんですよ。
どういう風なことがしたい、どういう風に見せたい、ていう意図ですよ。その頼りになる情報を元に僕は作って行きますから。
■振り付け師と演出家の「思惑」
森: よく振り付けしてて、「あ、僕もそう思ってました」って緑川さんが言う瞬 間があるんだけど・・・遠慮してますか?
 
緑: 遠慮というか、僕の意識としては、自分は“作・総合演出”という立場だと思っていて。他のスタッフの方々のところには、例えば“振り付け”としかないですけど、 でも僕の中では“振り付け演出”とか“音響演出”とか、皆さんが演出だと思ってる んです。
自分自身が、それぞれの演出家さんの意図がなんだろうってわかるまで は、自分が軽々しく異論を挟みたくないっていう意識がどの人に対してもあって、そこがもしかしたらば、各演出の人からすると「遠慮してない?」ってみら れる部分なのかもしれない。でも、常に葛藤してるのは「あ、コレ自分が考えて るのと明らかに違う方向に行ってるな」っていう時間。次朗さんが創っている意 図を、自分が理解するまで、待った方がいいだろうかって、口挟むタイミングを葛藤してる。(笑)
 
森: たとえば、作品のテーマによって、「戦国」だからどうとか、そういうこ とって、僕は実はあんまり考えないんですよ。
時代ものだから、じゃあ擦り足と かっていうんじゃなくて、それは一応ちょっとモチーフには入れるけど、そこに 囚われると何もできなくなっちゃうからそれはあんまり・・・。言ってしまえば、僕はやれることしかできないんですよ、ものすごく斬新なことがひねり出さ れるわけではないんで。自分のやれることしかない。
だから、やりながら「ああ こっちの方向でいい、悪い」と何度も何度もくり返しながら、の創り方になるんですよ。答えあわせをしてゆくっていう。僕はもう、自分がやってて楽しいこと しかやらないんですよ。今回も本当はきっと、緑川さんは最初、もっと踊らないイメージだったと思うのね。でも、気がついたらもう振り付けばっかり。で しょ?「ここ踊らなきゃダメなんですよ、ダメなんですよ」って結局なってっちゃったじゃないですか。
 
緑: 今回も、最初あそこはなるべく動かないで欲しいと思っていた。
でも今は、 あの何秒かの部分が、大好きな時間になっています。だから、まずは遠慮してお任せした結果いいものが出来た、ということを今まで何回も経験してるので、好んで遠慮するんです。
 
森: 演出の術、ですよね。役者でもそうだけど、縛っちゃうとそれ以上にはならない、でも、演者はガイドを求めてる。この方向に行っていいか迷ったら、そこ の頼りはちょっと欲しい。でもそれ以上は、言わなくても勝手に動く。そんな関係。それは演出も振り付けもきっと変わらないと思います。
■言葉では伝わらない「面白さ」
緑: 次朗さんダンス公演で海外何べんも行ってますよね、向こうで劇場へ行って作品を観たりします?
 
森: 向こうでは観るヒマがないんですよ・・・。けど、海外のヤツが日本に来る のはよく観ます。
 
緑: 僕は1年前、パリに行ったのが自分にとって初海外で。それが自分にとって 物凄くエポックメイキングで。
向こうでみた、言葉が全然わからないミュージカ ルが楽しめたのももちろんありますけど。 向こうに行ってる間の一週間が、当然言葉がわからないことだらけで。挨拶ぐら いはちょっとは喋れるんですが。 言葉は分からなくても、今、自分自身がずーっ と楽しんでるっていうのを一週間のあいだずっと実感してました。
だから、こっちで自分達が今まで作ってきた芝居も、そのお客さんと自分達作り手の間の「日本語」っていう共通のコミュニケーションツールに、いかにおんぶにだっこに なってきたかを反省して。もっと同じ空間にある見せ物として攻めていけないか な、と。
 
森: 観られて楽しめたのはミュージカルですか? それはストレートプレイ、それとも会話劇のお芝居?
 
緑:

ミュージカルです。あとバレエ。

 
森: ミュージカルっていうのは、総合エンターテイメントなので、言葉以外に楽 しめる要素がいっぱいあるんですよ。音楽の力と、ダンスとか動きの力があって。ミュージカルは大抵、エンターテインな感じじゃないですか。だから、楽しめる要素でもって作られているから、あれはもちろん外国人からでも楽しめると 思うんですね。 で、バレエは最初から言葉はないから、万国共通のマイムで踊るので、何となく 原作のストーリーがわかってれば楽しめる。テクニックで楽しめるんです、超人 的な。
あ、オペラ座は観ました?
 
緑: いえ、老舗の劇場で『白鳥の湖』を。オペラ座は高くて観れませんでし た・・・。
 
森: 機会があったらオペラ座観ておくといいですけどねえ。でも、キューブリッ クがやろうとしてることは、ミュージカルなんですか? どちらかというとスト レートプレイに属するものでは?
 
緑: ミュージカルとは違いますね。
 
森: で、今いった内容だと、ミュージカルはエンターテインするものがいっぱい ある。ストレートプレイは若干それが減っちゃうと思うんですよ。で、日本語を使わないってことは、楽しませる内容としては、会話の術とかおもしろいネタと かで笑かすというよりは、皮膚感覚で楽しめるもの、ってことですよね? なかなか難しいですよね
 
緑: たぶん今後も、ストレートプレイに属するところは、その域から出ないので はないかと思うんです。
 
森: それはもう、本当にそうですね。そうあってほしいです。僕が手伝えることがあったら手伝います。
 
緑: お客さんにも「お芝居」を観に来てもらうっていう目的で劇場に足を運んでほしいんです。
そこでどこまで、毎回毎回、毛穴を開かせて帰ってもらえるかっ ていう。
 
森: 今回の、テーマとして持っているものは?
 
緑: テーマは、今も昔も変わらないもの。お客さんが共感し感動できるところ も、今と昔で変わらないんだっていうところで。時代劇にはもちろん興味はありましたが、時代劇ありきというよりは、僕らが伝えたいことをお見せするのに ピッタリの題材だと思ってます。
 
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